『リーガル・ハイ』 第9話

録画を見るまでは、twitterでもブログでも、感想などには極力触れないよう心がけているのですが、どうしても眼に入ってしまった各所での「すごい」「すごい」の大絶賛…の第9話を見ましたよ。すごかった! 

たかがテレビドラマ、と思う向きも大勢でしょうが、そんなたかがテレビドラマで、こんなにも胸を震わされる瞬間ってのが、意外とあるわけですよ。近いところでいえば、去年の「それでも、生きてゆく」もそうだったし、「カーネーション」もそうだったし、「清盛」だってすげーとこはいろいろあります。まあもちろん玉石混交ではありますけどね、テレビドラマって意外と、というか、全然、捨てたもんじゃないな、と感じる次第であります。

それにしても「リーガル・ハイ」。「快作」「秀作」を超えて、もはやはっきりと「名作」「傑作」の域に入ったね。9話、驚きの連続でした。

まず、「テレビでここまでやれるのか?!」ってこと。いつも録画で見てるんで見逃しがちだったスポンサー企業を思わず確認しちゃったよ。日産、カネボウ、ドコモ、JAバンク…押しも押されぬ有力企業ばかりですよね。彼らはこの事態を容認してるのね?! このレベルまでセリフで言っちゃっても、スポンサーの圧力って、意外とないもんなんでしょうか。よそでは、作り手が自主規制してるだけなのか。しれっとやっちゃったのか。この枠のスポンサーが話のわかる御尽ぞろいなのか。

次に、あの怖いほど核心に迫った長ぜりふ。

「あなたたちは国に棄てられた民、“棄民”なんです」

この一言だけでも、十分にガツンときたんだけども。

「これがこの国のなれ合いという文化の根深さ」
「大企業に寄生する心優しいダニ」
「今、土を汚され、水を汚され、病に冒され、この土地にだってもはや住めない可能性はあるけれど、でも商品券もくれたし、誠意も絆も感じられた」
「きっともう問題は起きないんでしょう。だって絆があるから!」

いま日本が抱えている問題を想起せずにはいられないフレーズが、容赦なく並べたてられる。

そして続くアジテーション

「誰にも責任を取らせず、見たくない物を見ず、みんな仲良しで暮らしていけば楽でしょう。しかし、誇りある生き方を取り戻したいのならば、見たくない物を見なくてはならない!」

「深い傷を負う事を覚悟して前に進むしかない! 戦うという事はそういう事だ!」

「金が全てなんですよ! 奪われた物と、踏みにじられた尊厳にふさわしい対価を得る方法は金だけなんだ!」

しみったれたみじめな老人を見てると虫唾が走る、と言い切る古美門だけど、この老人っていうのは比喩表現であって、飼いならされた日本の民すべてを指しているんだろうな、と思う。震災以来の日本について咀嚼したテレビドラマは、山田太一の「キルトの家」や、クドカンの「11人もいる!」などちらほらと出始めているところで、挙げたふたつはどちらも高く評価された。これからも長きにわたっていろいろな作品が続くだろうけど、この「リーガル・ハイ」9話のような切り口での、ここまで突っ込んだ言及は、なかなかないのではなかろうか。

古美門の徹底した拝金主義にもしっかりとした筋を通した。同じく企業側が個人の権利を侵す案件で、第4話では企業側に立った古美門だけど、馴れ合いを糾弾する姿勢が一貫していることといい、手のひら返しに思えないところがまた、脚本のうまさ。

さらに、当然ながら、この長ぜりふをこなした堺雅人の演技力。こなす、なんてもんじゃないですね、まさに鬼気迫るものがありました。あの場に居合わせたら、ガッキーじゃなくても普通に泣けるでしょう。

主演の長ぜりふを組み込むドラマってちょいちょいありますが、ほんとに演技力の差が出るからね…(悪い例が思い浮かんでいるが、挙げるまい)。当然、脚本家は役者を信じてこの恐るべき挑戦状をつきつけているんですが、しっかりと受けて立った。昨夏、やはり視聴者を震撼とさせた大竹しのぶ@「それでも、…」の長ぜりふに引けをとらない演技だった。

言葉を叩きつけ、叫んで、いったん静に転じて、そこからまた徐々に激していく。その緩急。文章の強さに、発する言葉が負けてない。叫ばれ続けるのって、ややもすれば耳をふさぎたくなるような思いに駆られるけど、思わず耳を傾けさせるセリフまわし。ほんとに見事だった…。

そして、最後のすごさは、この大盛り上がりが、最終回ではないということ。コアなドラマファンの間では、「名作がもっとも盛り上がるのは、プレ最終回」という法則もあるんだけど(あるよね?)、なんと、プレ最終回ですらない。これは、古美門と三木の最後の戦いの導入部なんです。三木が仕掛けてきたのを、それとわかって受けて立ったところまでが今回なんです。このあとには、三木との決着、澤地と服部さんの正体、そして、ガッキー黛が古美門を倒すか否か…ってところまで、やるんですよね? おおおお恐ろしいドラマじゃぁぁぁぁ。