『ゼラニウム』 堀江敏幸

ゼラニウム (中公文庫)

ゼラニウム (中公文庫)

芥川賞作家って気になる。賞の性格上、人口に膾炙するのは直木賞作家であることのほうが多いんだけど*1芥川賞作家ってなんとも気になるものだ。ただしそこは純文学の新人賞なので、自分にフィットする・しないの落差は激しい。

というわけで、芥川賞作家のご紹介(?)です。堀江さんの小説を読むのはこれが初めて。短編集。ひとつめの話を読み終わって思ったのは、「なんて頭いい文章を書く人なんだ!」。すべての話を最後まで読み終わって思ったのは、「この人、頭良すぎ!」。頭の悪い感想ですみません。しかしwikipediaで調べたところ、なんとこの人、東大で博士課程まで行ってて、今は早稲田の教授だというから、私ったら全然正しいじゃないですか!

こんなにも緻密で精巧な文章と構成をもって書いてあるのに、こんなにも「何ごとも語らず、ただほのめかすのみ」っていうのが凄い。すべてものすごく変わった設定で、「それで、どういう話なの?」と食いつく人に、これこれ、こうなって…と話すと、「そ、それだけ? それのどこが面白いの?」て言われそうだけど、この面白さは実際に読まないとわかりません。

鬱屈や戸惑い、詰んでいる感じが充満しつつも、どこかユーモラスで官能的。まるで、ふだん使わない筋肉を使ったような、いつもは見えてない「第3の目」がひらいたような、自分までちょっと頭良くなった気がするような、新鮮で知的な読書体験だった。

この人の芥川賞受賞作のタイトル、『熊の敷石』ですってよ。中身の想像がつかなさすぎてウケる。

*1:最近は、2回連続=西村さんと田中さんというユニークなキャラクターが脚光を浴びたけど