『平清盛』 第16話「さらば父上」

そのものズバリなサブタイトルから、いったいどんだけの愁嘆場が用意されているのかと、ゾッとしないでもなかったんだが、蓋を開けてみると、さあ泣けと言わんばかりのウェットな描写は極力抑えられていて、とても良かった。おかげで、鼻白むことなくミキプルーン(あ、つい。ネット見てると貴一よりミキプルーンって書いてあるほうが多いんだもんw)の功績に感じ入ることができたよ。

実子の無念の死に打ちのめされて、心の軸を失いそうになりながらも、最後まで見事な平氏の棟梁だった。迫ってきた己の死期を悟って一族郎党を集め、きっちりと形見分けと遺言とをこなすプルーン(あ、つい)。うるさ型の叔父さんを持ち上げたり、腹心の殉死を制したりと後顧の憂いを断つのに余念なく、影の薄い四男を見落とすという小ボケも交えながら、「そんなこんなで棟梁は清盛だから。異論は許さん」と明言、断言。

いいシーンでしたね。指名された清盛が、まず、不安げに継母を見やり、彼女が小さく頷くのを見てから、かしこまった所作でもって「謹んでお受けいたします」と宣言。ついに、ついにかー! と、なかなか万感迫るもんがありました。

国守となって安芸に行く清盛、その海辺にあらわれたミキ…忠盛。無言だわ、BGMはピアノだわ(この曲好き)、病のはずのお父さんなのに、チャンバラの身のこなしがやたら軽く若々しいわで、まったくもって霊界との交信そのものなんだけど、こういうアクティブなパフォーマンスを見せる幽霊(しかも逝ったばっかり)ってなかなか珍しくて、良かったです。

ひとしきりやり合ったあとは、父と子とでてらいなく笑いあったあと、たった一言、「強くなったな」。実にいい場面でした。第一話、「死にたくなければ、強くなれ!」と言って地面に大剣をぶっ刺した父上。これがアンサーシーンなんですよね。

で、このシーンを見ててあらためて思ったんだけど、強くなりたかったのは、あのとき子どもだった平太=清盛だけじゃなくて、忠盛もずっとそう思って生きてきたんだろうな、と。それは、義朝もそうだし、その父・為義も(父同士が再び相まみえるシーンも良かったですね、小日向さんやっぱり巧い。)同じ。武士という、血気だけは盛んだけど、おのれの存在意義がわからない身分に生まれた男の子たち、この大河は、やっぱりそういう“強くなりたい”少年たちの物語なんだな、と強く感じました。

名前を出したところで源氏に目を転じてみれば、ここの親子の溝は深いです。保元・平治の乱についての知識はあれど、こういうこじれ方で…てのは想像してませんでした。いや、ここまでこじれているからこそ、現実に乱になったときにきっと泣けるのね。

それにしても、由良御前がいい目を見る役ではないだろうことは想像に難くなかったけれど、ここまでとは! そして、どんな女も単なる「俺様の役に立つ道具」でしかなかった義朝が、ただひとり心を奪われるのが常磐という女性だということも想像に難くなかったけれど、あんなしょーもない言葉で落ちるとは…! や、逆にリアルでした。義朝はもともと常磐に惹かれまくってて、好きすぎるあまりに、いつもの調子で「早く脱げよ」と言えなかっただけなのよ。ちょっと突つけばゴロンと倒れるスタンバイはできてたのよ。

ちなみに、「女の勤め先=しかも宮中で押し倒し」っていうのは、考証的におかしくはありません。当時は宮仕えする女のもと(=勤め先のお屋敷)に男が通ってくるのは普通だったはずです、ハイ。

さらに親子/兄弟のいさかいといえば、藤原摂関家もひどいわけで…おい頼長ー! 思い起こせば登場した回では清盛をぐうの音も出ないまでに打ち負かし、家盛をボロボロになるまで弄び、そのことを実父の忠盛にバラして心をズタズタにし…と、ここまで無敵を誇ってきた悪左府頼長ー! 何あっさり得子の罠にひっかかってんだよー! 鳥羽院の手綱もしっかり握ってるし、やっぱり最強なのは得子さまなのね。

その得子さまからの無茶な要請にムムムとなってるお父さんに代わって、キッパリ断ってみせた清盛。キッパリとはいえ、「うまく言えぬが」「そんな気がする」と甚だ心もとない答弁で、ものすごく視聴者を不安にさせてくれましたが、これはもちろんわざとでしょう。

清盛ってば、この時点で30過ぎてるんですよ。今回、時子との間にできた清三郎が5歳とかいってたけど、清太・清次はもっと大きいってことですからね。精神年齢が低くなったといわれる現代ニッポン人だって、30才ともなれば、たいていの人はいっぱしの社会人になってます。それを思うと、清盛いつまでモラトリアムやってんだー!って話。

でも、そう描きたかったんですよね。大器ではある。でも中身はまだまだ発展途上。そういう状態で、強く偉大な父という最大の庇護者を失くし、平氏一門を率いていくことになるのだ、と。

まさに、忠盛あってこそ、無頼もやんちゃもヒネクレもガキンチョも、すべて許されてきた清盛だった。そう思える忠盛像でした。決して出ずっぱりだったわけではないし、むしろ、寡黙な印象だったのに、ただ座っているだけですごい存在感、で、決めるところは決める、という大役者ぶりを遺憾なく発揮してくれた貴一に、一年分なり十年分なり、好きなだけミキプルーンを進呈したいと思います。

そして、そんな中井貴一が見られなくなるのは寂しいけれど、これで、ついに、まんをじして、棟梁です。予告では、なんか見た目もクラスチェンジしてました。楽しみです。とても楽しみです!