『隠し剣 孤影抄』 藤沢周平

隠し剣孤影抄 (文春文庫)

隠し剣孤影抄 (文春文庫)

たそがれ清兵衛』のあとに読んだ。同じく、剣技に長けた下級藩士が主人公の短編集ではあるものの、毛色はかなり違う。あちらは、ふだんは冴えないが平凡な日常を送っている男の身に急に災厄が降りかかり翻弄される、という態だったが、こちらは、もうきっぱりと、剣士たちのお話。

滅多なことでは日の下で披露できない秘剣と呼ばれる技をもつ剣士や、その周囲の人々の運命は苛酷だ。苛酷な運命を背負っているから秘剣を授けられたのか、あるいは秘剣そのものが、苛酷な運命を呼び込んでくるのか・・・というような、背筋に慄えがくるような話ばかりだったりする。

しかしここまでくると「自分の身におきかえちゃって・・・」なんてことはない。もう、そういう次元じゃない。峻烈なストーリー展開、悲劇的な結末さえも、それしかないよね!て感じでピタッと嵌っていて、1編読み終えるごとに変な快感がある。

必死剣鳥刺し」や「悲運剣芦刈り」のような話も、中編ほどのボリュームで読者をぐいぐい惹きつけつつ凍りつかせる「宿命剣鬼走り」も、作家はきっと、ノリにノッて書いたんじゃないかな。それでも雑さとは程遠く、少しの贅肉もないような、隅々にまで神経が行き渡ったような筆運びはさすが藤沢周平。彼こそ小説界の手練れの使い手、名剣士だった!!

ちょっと目を覆うような話も多いんで、「隠し剣 鬼ノ爪」の萌え要素が際立って感じられる。うん、これを映像化したくなる気持ちはわかるわ、ってなもんだ。2004年公開で、主演は永瀬正敏松たか子。DVD借りて見てみようかな〜とwikiってみたところ、設定が全然違うじゃないか〜!! 農家から奉公にきているおぼこい少女ってとこがいいのに〜!