読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

『風が強く吹いている』

風が強く吹いている [DVD]

風が強く吹いている [DVD]

2009年、劇場で(公開初日に!)見たのに続いて、DVDにて2度目(+3度目)の鑑賞。

結論。監督・脚本の大森寿美男って、センスあると思う。えーっと、賛否両論(・・・というか、“否”の一論って気もするが笑)の演出については、おいおい述べるとして。

三浦しをんによる原作は、

  • 1.アオタケに住む個性豊かな10人の共同生活
  • 2.箱根駅伝に対する緻密で真摯な取材 

という、ふたつのディテール及びムードに基づいて紡がれた、ある種ファンタスティックなストーリーによって、多くの読者に感動(と萌え)の渦を巻き起こしたんだと思う。渦っていうか、もはや感動(と萌え)の竜巻くらいにはなってるんだけどね、私にとっては。でへ。

映画化に際し、大森は、このふたつのキモを、かなり大事にしてくれたと思うのだ。

133分と長い映画である。しかし原作小説の長さを思えば、いかにも短い。そのギャップを埋めるため、映画では適宜、大胆なアレンジを加えている。アオタケは陸上部の寮扱いであると(新入りのカケル以外の)メンバーは知っていて、そのため、もともとみんな毎朝5km走っている、という設定がその最たるもの。原作ファンとしては、一瞬「ゲタ履いてるじゃねーか!」と激昂しそうになるが、これは時間の制約がある映画において、物語の説得力を補強するためのナイス・工夫なのである。

キングの「俺って浮いてるだろ」エピソードなど、原作とは異なった位置に配したもの*1もあれば、冒頭の食堂シーンなど、映画オリジナルのエピソードもある。

かと思えば、パッケージごと針金でぐるぐる巻きにされた煙草を見て、「力石(徹)だ、力石ですよニコチャン先輩は!」と、漫画好きの王子が感動するシーンは、ストーリーに直接関係ない枝葉のエピソードであるにもかかわらず原作に忠実だし、それどころか、王子については、記録会で好走したあと「燃えた・・・燃え尽きたよ・・・」とジョーになりきるという、思いきり枝葉のエピソードまで創作されている。

原作の改変も、創作も、先に挙げた原作の美点を存分に生かすためのものなのだ。また、予選会や本大会のロケには、規模といいカメラワークといい、大森の執念さえも感じる。

若い役者たちの演技もだいぶ荒削りなんだけど、たいして冴えない男子学生たちがワイワイだべってる雰囲気をうまく出すのに、かなり心を砕いて撮ってるはず。アオタケでの飲み会とか夏合宿など、ついつい萌え萌えしてリピートしてしまった私ですよ。げへへ。

なかでも主演のふたりについて特筆しないわけにはいかない。小出恵介は、ちょっとニヤニヤしすぎのような気がせんでもないが、アオタケメンバーに向ける優しいまなざしはまさにハイジ。林遣都は私のイメージよりは童顔なんだが、幼いほどに純粋で、走るために生まれてきたかのようなカケルを体現してると思う。

すばらしいのは、ハイジとカケルそれぞれのキャラクターが役者によってくっきり浮かび上がっているのみならず、ふたりの友情や信頼、むしろ“や○い”に近いんじゃないか?っていうレベルまで高められているハイジとカケルの関係性までもを、きっちりと原作どおりにほのめかしてくれたことである! 

かほどに緻密に正確に、かつ愛情をもって原作を読み解き、映像化してみせた大森だからこそ、疑問に思うのだ。なんで、ところどころに、あーゆー演出をほどこしたのか。暗闇の中、並んでランニングする10人をスローモーションで映し、ひとりひとりにスポットライトがあたっていく・・・みたいな。『風林火山』でもコンビを組んでいた千住明による音楽といい、この作品では、昭和40〜50年代っぽさをかもし出す必要性があるという判断か? 

ハイジのゴール前の描写も、あるていどの理解はできる。「すさまじい痛みをこらえながらも、見かけ上、平然と走る」というのは、活字だからこそ可能であれ、映像でできる表現ではないと思うからだ。でも、あんまりにも大仰に、あんまりにも長く引っぱるもんだから、ついつい4倍速で見てしまったではないか笑

ま、そんなこんながあったとしてもだ、私はこの映画を心から愛している! 「これはこれで、有りだな。おもしろかった。原作とは別物だけど」という映像化作品ならいろいろ挙げられるだろう。だが、「まさにあの原作が映像になった!」と思える映画やドラマが、いったいどれだけあるだろうか? 

「ハイジに、カケルに、アオタケのメンバーに会えた」って気持ちにさせてくれた映画。でも、この映画のことを思うとき、同時に、あの妙な味つけの演出を思い出さないわけにはいかないんだよね〜。実は、それこそが大森の狙いであり、ほぼ完璧なまでに原作を体現してみせた大森の、この映画に対する唯一の主張なのかな・・・と、やたら好意的に穿った見方をしてみるワタクシであります。

ついでに初見の感想はコチラ→(鼻血ぶーだぜ - moonshine

*1:原作ではキングは「俺って浮いてるだろ」という気持ちを誰かに告白したりはしないので、厳密には、位置が違うだけでなく創作もまじったエピソードってことになる