『江』 第39話「運命の対面」

大河ドラマ史上、もっともしょうもないだろう扱いを受けている主人公、お江ちゃんである。ついでに秀忠! おまえも良くない。やたらと超人的活躍をしたり、聖人的セリフを吐いたりして、視聴者を鼻白ませるのは大河ドラマの主人公の良くない傾向であり、かの迷作『天地人』における直江兼続などがまさにその典型なのであるが、お江ちゃん(&その旦那)ときたら・・・。

歴史認識については、ここに来てもなお、「豊臣と徳川は戦になるのですか」の一点張り。母としては、竹千代をじぃじのお気に入りこと春日局こと福に取られた腹いせに、次男・国松を偏愛するという、「それって、春日局が主人公だった大河の(つまり敵役だったときの)お江と一緒じゃん!」という驚愕の描写。今年は主人公なんだってばよぅ! もうちょっと、視聴者に感情移入させて!

そんなアホちんのお江ちゃんの分まで、超人・聖人属性を一手に引き受けているのが、夫・秀忠なのであるが、諸大名に莫大なコストを負担させ、せっかく江戸城がバージョンアップしたのに、“豊臣のために”京阪に引越そうとしてみたり、将来は関白・秀頼を支える将軍になるのだ、なのだったらなのなのだ!と誓ってみたり、もう、お茶の間の我らが眩暈で倒れそうです。理想に燃えるのはけっこうですが、歴史がその成就をはっきりと否定しているんですから、そっちの方向でがんばられても、アホにしか見えないわけですよ。誰か、このアホ夫婦なんとかしてー! 浮きすぎてる!

それはそれとして、姉妹のキャラ変化が顕著な昨今である。淀は息子・秀頼への妄執に近い愛情と徳川へのたぎる憎悪によって愚かな破滅への道をひた走り、江は優しい年下夫とたくさんの子を得て、まあそれはそれで悩みは尽きないのだがなんとなくほんわかと暮らしてる。初は緊迫する姉の家と妹の家との間で奔走する。という、いわゆる“浅井三姉妹モノ”の王道に今やすっかり乗っているわけだが、初期では、茶々はもっとも賢明で思慮深くおとなしやかなお姫様であり、江は織田信長ばりに気性の激しいじゃじゃ馬で、初は美味い饅頭と好きな男さえモノになればいいという利己主義者のように描いたのがこのドラマだった。

当然、最終型を念頭においての当初の設定で、長い人生の中での変化を描くつもりだったんだろう。その説得力がもっとも薄いのが主人公のお江ちゃんっていうのがすごく皮肉な話。宮沢りえの地力と水川あさみの好演も大きいにせよ、樹里ちゃんにその責任を転嫁するのはあまりにもかわいそうな話で、たとえ悪気はないにせよ、このドラマの作り手は、主人公を描き通す力にあまりにも欠けていたといわざるを得ないと思うんです。

秀忠のお妾さん問題ではあんなに大騒動していたのに、今回、秀頼の側室に子が生まれたことには特に反応もなし。秀頼の正室は愛娘・千姫なのにね。などなど、とにかく疑問符がつきまとうお江ちゃんなんだもん。

今回がんばってた秀頼役の太賀くんは、『風林火山』ではバカ殿こと関東管領上杉憲政の嫡男・竜若丸だった。松井誠の北条氏康に叩っ斬られた悲運の貴公子ね。すぐにはちょっとわかんないくらい、4年で大きくなってました。ちなみに、そのとき、北条氏康の嫡男・氏政の若かりし頃を演じたのは早乙女太一くんで、日本を代表する大衆演劇役者の父子で並んで舞う名シーンがありましたな。