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『佐野元春のソングライターズ』キリンジ part1

音楽 テレビ

キリンジ。2004年くらいに初めて知って、それからはいちばんよく聴いている音楽なんじゃないかってぐらいなのに、テレビはもちろん、雑誌やネットですら露出しているのを見る機会がなかった。それだけ純粋に音楽に惚れぬいてるともいえるんだけど。

キリンジを聴いて知性を感じない人はいないだろうが、初めて見ると、想像以上に知的でユーモラスな兄弟。どちらかというと、弟・泰行はシャイで感覚派って感じかな。兄、高樹は雄弁、論理的! カンニング竹山をマイルドにしたような風貌・・・にも見えるんだけど、突然キレることもなく(あたりまえだ)、穏やかに、しかし佐野元春相手に臆することなくいちいち超知的な発言を繰り返してた。ちなみに早稲田大学卒だって。

関係ないけど早慶出身の人ってほんと頭いいなーと思う今日このごろ。てか、初めて知ったんだが、佐野さんも立教出身なんだね。どおりで〜。この〜、大卒ロッカーたちめ! 

こんなことを書くと、「なんかインテリちっくな音楽・・・?」と引く人もいそうだけれど、そうじゃない。キリンジは“感じる”音楽だ。でなきゃ、音楽なんてクセにならない。

美しいメロディーラインと大人っぽいアレンジ、それに由紀さおり安田祥子ばりの奇跡の兄弟ハーモニーが融合して、すごく気持ちいいのだ。家事にも合う。酒にも合う。朝焼けや夕暮れの散歩にも合うと思う。

佐野さんの「キリンジを聴くと複雑な情景が浮かんでくる」という感想もまさに言い得て妙なんだけど、体で感じた気持ちよさの上に乗っかってる詞を何度も聞いていると、またじんわりと別の感慨が湧いてくる。「愛してる」「がんばって」なんて直球がひとつもないからこそ、詞を聴くのがおもしろい。わからないところも含めて味わい深い。

この人たちはこの世界を隅々までつぶさに見て、描きあらわしている、と感じる。そして、村上春樹で言うなら、“『壁と卵』の卵の側に立っている”人たちだと思う。堅固なシステムにぶつかって割れる脆い卵、つまり個としての人間を愛している、と。詞のユーモアにも怒りにも、絶望にさえもそれがあらわれている。だからこそ、キリンジは静かに愛され続けるんだと思う。

そういうことまで、余すことなく、といっていいくらい語ってくれたのがうれしいし、深いところまで質問して引き出してくれた佐野さん、および、この番組自体を素敵だと思う。来週のpart2も楽しみ。

  • (以下すべて佐野さん)キリンジの詞は文学的である、という評価をどう思うか?

 兄 「何言ってるかよくわかんないから文学的といわれているんじゃないか。文学、というのは文学的である、というのとは別(ここで佐野さん、「そのとおりです」と大きくうなずく)。文学ですね、といわれると、そうですと言えるが、文学的ですね、と言われると「おしゃれ」「すかしてる」といわれてるのと一緒じゃないかと。」

  • 『地を這う者に翼はいらぬ』の最初のフレーズ「伽藍堂の空に舞う猛禽類にわなないて」について。国内のポップスの中でもっとも抽象的な詞、およそポップスの詞とは思えない。これは・・・何なんですか?w

 兄 「伽藍堂、だから空に屋根がある。閉塞感というか。そこに猛禽類・・・強いものがいる。(佐野さんの「鷲とか鷹とか」という相槌に対して「鷲と鷹は一緒なんですけどね、分類学的には」と答える。感じ悪いw)トカゲとか、その強いもののエサになっているものの存在。社会的弱者といってもいい」

  • では、この歌の最後のフレーズ「さよならさ グッバイ メンズ メンズ ワールド」というのは、タフ・マッチョな男性社会に皮肉を飛ばしたものということ?

 兄 「そう。そういう世界に取り込まれるか?逸脱するか?といわれたら、逸脱します、という。弱いなりに意志がある、という」

  • 悪役レスラーが主人公である『悪玉』について

 兄 「自分以外の誰かのことを題材にするのは、こんなふうかな?とその人のことを自分が考えて感じたことを書くんだから、人のことを書いているようでも、結局は自分が反映される。」

  • 好きな言葉は?

 弟 「季節、という言葉を詞によく使っている」
 兄 「雨。あ、で広がって、め、で閉じるという感じが、歌にハマりやすい」

  • 嫌いな言葉、言われたらカチンとくることばは?

 弟 「アラフォー」
 兄 「女子会」「2ちゃんで絶賛されてたよ」←www

  • 死ぬ前に愛する人に残す言葉は?

 弟 「ありがとう。恋人作っていいよ。素敵な人とね」

 兄 「それらの人、好きです。「ふるさとは遠くにありて思うもの」みたいな詩もいいんだけど、活字になってのおもしろさ、音として読んだときの奇妙さ、詩をデザインとしてとらえている感じがおもしろい。」

  • 吉増剛造に「燃える」という詩に、「流星を正面から顔に刺青できるか君は」とある。キリンジの『野良の虹』の「流星の刺青をまぶたに刻め」というのはこれに触発されたもの?

 兄 「そうです。刺青できるか、と聞かれたので、「できます」と。「俺もやる」と。」

  • 弟は、詩を書くときに影響を受けたものはあるか?

 弟 「寺山修二が好きだったので、影響を受けていると思う」

  • キリンジの曲を聴いていると、複雑な景色が浮かぶが、世界は美しいものだと思いますか? 腐っていると思いますか? どちらの立場で曲を書いているか?

 弟 「基本的には美しいと思う」
 兄 「美しいと思いたい、という感じ。だが現実は・・・自分の目に映る世界だけだったら、多少いやなことがあっても許せる範囲。でも、今回の震災のこととか、ソマリアのこととか、そういうものに目を向けると、単に美しいとも言い切れない。人間性にあふれた人たちもいっぱいいるが、そういったものを押しやってしまうような大きな悪意もある。現実的には、汚いとか残酷だなと思うことも多い」