あなたが結婚するならば

美味しいものを食べたければ手間ひまかける必要があるし、食べたあとには片づけがある、ゴミも出る。人が動けば埃は立つし、手垢水垢脂垢のたまる場所も数え切れない。靴を磨いたり布団を干したり取れかけたボタンをつけてみたり。車を出したり電球を替えたり寝た子を抱いて移動したり。

暮らしってつまりは、ネバーエンディング雑事だ。だから私は思う。喜びや悲しみはもちろんだけど、雑事を分かち合うことのできる人と結婚すべきだと。結婚を考える相手がいます、って人には、老婆心ながら問いたい。「あなたは、彼(彼女)のために雑事を引き受けられますか? また、彼(彼女)はあなたのために雑事を引き受けてくれる人ですか?」

ちまちました話だと思うなかれ。人生に大きな夢や目標を抱いている人こそ、ちまちましたことでのちのちまで煩わされるのは人生の損失ではないですか。

分担の方法や割合は夫婦それぞれだろうけど、「自分のことは自分で」なんて、何もかもクールにいかないのだけは確か。単に一時期、ルームシェアしてるわけじゃないんだから。家族が増えれば雑事も増えるし。雑事がまったくない日なんて皆無に等しいんだから、「私(俺)のほうがより多く負担してる」って思えば、毎日いらいらもやもやしなきゃいけない。その辺のうっぷんについては、やまだないとの『西荻夫婦』のひとコマが圧巻なんで、引用してみます。

妻「パパはタイヘンなことしないからタイヘンじゃないのよ」
夫「あーん? 俺は毎日、家のローンのために働いてんだぞ」
妻「(プチン)

あんたはただ働いて給料日にマンションと車のローン引かれるだけでいいかもしれないけど、引かれた残りであんたと俊(子ども)に生活させてんのはあたしじゃないっ、頭金出したのはお義母さんでしょ、そのお義母さんの電話相手してんのだれよ。事が全てあんた名義なもんだから自分が大した大人になった気でいるみたいだけど、結婚式の日取りだって夏と暮れの挨拶ごとだって生命保険だって、あんた何ひとつ自分じゃ手続きふめないじゃないか、かんちがするなァッ。だいたいあんたはわかりやすいやさしさしかみせないじゃない。すぐにありがとうって言えるような楽なやさしさよ。あんたの歯ブラシ新しいのにかえてるのは誰? とばしたおシッコ掃除してんのは誰? あんたありがとうなんて言う? 俊の写真を持ち歩けばそれが愛情のつもり?」

独身のころにこれ読んでゾッとしたもんね。今読めば、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ溜飲が下がる・・・ような気のするときも、ある。

でも私の夫は、基本的に雑事を厭わない人。なんせ、「してやってるぞ」感がいっさいないのも大きなポイントだし、“何曜日の掃除はだれ”みたいな係決めでなく、「気付いたほうがやる」「余裕のあるほうが、その気になったほうが、やる」方式でうまくいってるのも我が家の良さだと思っている。半永久的に続く暮らしでは、さまざまな事情により決め事を遂行できないことがあるのもたびたびだから、そんなときにいちいち責めたり責められたりするのは非合理的だもんね。

周りには、「奥さん(=私)の教育がいいのね〜」なんて言われるけど、ノンノンノン! そんな能力、私にはありませんよ。鬼嫁でもないし*1、そもそも、30にもなって、多少の環境要因で、人間、変わりますか? しかも家事・雑事だなんていうおもしろくもない金にもならない分野で。やっぱり、その人がわかってるかどうかなんですよ。

生活とは雑事の連続なのです。仕事に休みはあっても雑事にはありません。ハウスキープには不断の努力が必要で、自分はその当事者なのです。そういうことを料簡して、料簡するだけじゃなくて、実行できるかどうかなんですよ、しかも嫌な顔をせずにね。もうね、それができない人は、結婚する資格なんてない!と言いたいくらい。

子どもが生まれてからはまた雑事*2も増えて、夫にしろ私にしろ自分自身の自由な時間はやっぱり減っている。だからこそ協力しあうことが必須で、うちは今のところそれでまわっているのだが、もしそうじゃなければ日々の満足度は全然違うだろうな、と強く感じる今日このごろである。日々の満足度は、人生の満足度にも直結するのだし。

息子には、ぜひ、雑事遂行スキルを身につけた大人になってもらいたい。めんどくさいことをできる大人に。ただ、雑事とは、ひとつひとつこなしていくことによって、生活にすこやかなリズムや小さな充実感を生むものでもある。そこを体で覚えるのが肝要であろう。まずは夫の背中を見て学べ。そして、どんどんお手伝いをするのだ、サクよ! 母は自分が楽をしたくてこんなことを言ってるんじゃない。これが婚活の第一歩なのよ〜!

*1:まあ、嫁がかいがいしく世話してやんないから、しょうがなく自分でやってるってのもあるんだろうがね

*2:まあそれは“育児”そのものだから、あとから考えればそれもまた楽しかった、ってなるんだろうが