『密封』上田秀人

密封<奥右筆秘帳> (講談社文庫)

密封<奥右筆秘帳> (講談社文庫)

この人の作品は初めて読む。歴史・時代小説が好きとはいっても、私が好んで読むのは司馬遼太郎藤沢周平池波正太郎など、せいぜいが7,8人の作品だが、この広い世の中にはゴマンと時代小説作家がいて、テーマにしろ雰囲気にしろ千差万別だ。原文をそのまま訳してる?みたいな重厚さが見られるのものもあれば、七面倒くさい時代小説の様式を極力省略して、肩肘はらない娯楽小説として楽しまれるものもあり、前者には宮尾登美子の『平家物語』、後者には巷間で人気爆発中らしい「居眠り磐音」シリーズなんかが当てはまるんではないかと思う。

では、この上田秀人という人はどういう時代小説作家かというと、私の印象では、一言で言って“オタク”ですね。江戸幕府の諸制度や暮らしの慣習、剣道の仔細についてまで、こんなにも事細かく文中で触れまくられているものも珍しいし、またその膨大な知識を軸にミステリーが組み立てられている。

それが「気宇壮大」と見られているのか、宝島社の「この文庫書き下ろし時代小説がすごい!」で1位を獲得したシリーズもあるらしいんだけど、私としては、イマイチ乗り切れなかった。本作はシリーズ第1巻で、謎が謎を呼んでいる。その着地点には興味を惹かれるものの、文章や人物の造形にどうも魅力を感じない。

・・・と言いつつ、勢いに乗って2,3日で読み終わったので、じゅうぶん楽しんだのかもしれないけど。なんだかんだいったって私もオタクの傾向があるので、ウンチク部分が垂涎ものであるのも間違いない。ブックオフで続きを入手できないかなー。