『イレギュラー』 三羽省吾

イレギュラー (角川文庫)

イレギュラー (角川文庫)

出産後、夫に子どもを託し初めてひとりで外出したときに買った本。初めての外出が本屋であることは私には必然ですわよ。

名前も知らない作家の小説を初見で買うなんて久しぶりのような気がする(参照→“小説を読んでいない”2010-07-02 - moonshine)。文庫本についていた帯と、裏表紙のあらすじを見て、なんとなく今読んだらおもしろそうだなーと思ったのだ。子どもを産んだばかりで外出もままならないので、夏らしい本を読みたくなったのかもしれない。

これはとっても面白い小説。おお、こんなところに連れて行かれるとは・・・という驚きがある。物語の導入部と、半ばからとのカラーというかテイストというかが、だいぶ違う。それが成功しているのかどうかはよくわからない。なんとなく、序盤でくじけてしまう人もいそうな気がするし、読み進めていくにしたがって「マンガかよ!」と憤慨するような人もいる・・・かもしれない。

もしかしたら、もうちょっとやりようがあったんじゃないかな?という気はする。でも、大半の読者は、どんどんページをめくっていって、最後まで来たときに「ハーッ」と満足のため息をつくんじゃないかと思う。作者の気持ちが伝わってくる。それはとても真面目な気持ち。だから、これが拙いとかいうのは、なんか違う気がする。

高校野球と、水害に遭った小さな村。なんか、一歩間違えば重苦しく、あるいは薄っぺらくなりそうな題材を、真摯に書き込んでる。実際にはこうはいかない、というような設定、展開も、「こうであればいいのに」という作者の願いみたいなのが伝わってくるようだ。

くどくど書いたけど、そういうふうに考えて読むのはバカらしいくらい、面白い小説。ただただ面白い、と思えるのはいい小説だ。