入院生活ダイジェスト

  • 7月6日(火)サク生後1日め

夫が恋しく、大部屋の閉めきったカーテンの中で声を殺して泣く朝。女たるもの、泣きたいときには泣くがよし。起床時間までには気が済んでスッキリ。
しかし体調はまだまだ。トイレに立つだけでふらふら、用を足し行って戻ってくるだけでへとへと。股関節、お尻の筋肉、会陰の傷(吸引分娩する際、パチパチパチパチと四回も切開したんだよ!)など、実際にあちこち痛く、また痛みへの恐怖心もあり、寝返りひとつとっても動作はいちいち超スロー。朝昼、食事は半分も入らず。
昼前の診察でシャワーは許可されたので、超スローで浴びる。日曜の朝に破水したため、土曜の夜以来。真人間に少し近づいた気分、、、。
昼から母子同室。どきどき。しっかしサク、かわいいもんだ。大部屋のカーテンの中で始終、声を殺さず話しかけちまう。
午後、母が来る。19時過ぎには夫。夕食はほぼ完食。なんたる豪華さ、おいしさだ!と、食事への喜びが産後初めて湧く。その脇でコンビニのおにぎりを食べる夫。
21時、サクを新生児室へ預ける。しかし、気持ちが落ち着かずなかなか寝付けない。既に夜間も母子同室になっている赤ちゃんが交代で泣くと、「うわー明日の夜からどうしよう!」と今から緊張。
サクがおっぱいを吸うと、お腹がジクジク痛む。吸われることで、子宮が収縮して元に戻っていくらしい。知らんかった。

  • 7月7日(水)サク生後2日め

始終眠りが浅く、たびたび目覚めて、かなり睡眠不足で迎えた朝。しかし気分は良かですよ。各所の痛みもふらつきも昨日比50パーセントくらいしかない、てな体感。円座クッションももう要らないよ! サクを部屋に迎えて食べる朝食、納豆が、味噌汁が、ああ何て美味しい。
10時過ぎ、仕事途中の父が来てサクを抱っこ。13時過ぎには母、続いてしほちゃん親子。長女ちゃん、パジャマですっぴんの私を最初は不審に思ったようだが程なく慣れて「えみちゃんえみちゃん」言い始め、院内を走り回りベッドでびょんびょん飛び跳ねてテンション最高潮! いつもの元気さなんだけと、これ2時間近くってのは、なんかさすがに今日は疲れた、母がいたとはいえ、サクの授乳などもしながらだったし。
「あんた、顔が真っ青よ!」と母に言われて横になっていると、ぶっとい注射器を携えて看護師さん登場。今朝、自信満々で受けた血液検査の結果、ヘモグロビン値9.4という立派な貧血が判明したらしい。「1日1本キメましょうね〜」と鉄を注入され、出産ラッシュゆえに元気な母子は通常より1日早い退院をすすめられている戦時下(?)の当産院ながら、「あなたはずっといてもいいわよ〜」と言われる。
19時、ほぼ同時に姉夫妻と夫が来院。サク泣き叫ぶのでおっぱいをちょっこし吸わせると落ち着いて腕の中で寝る。まだわずかしか出てないはずなのに、そんなにおっぱいが好きですか。。。 W杯優勝予想、私ドイツ、夫スペイン、姉夫妻オランダ。

  • 7月8日(木)サク生後3日め

本来、前夜から夜間も母子同室となる当産院。。。のはずだが、貧血の私は回復に専念するため免除。。。のはずだが、おっぱいが急激に張りだして痛くなったので、深夜2時からサクを部屋に引き取り随時授乳。という、複雑な経路?をたどった夜が明ける。
いったん起きるとなかなか寝付かないサクを5時まで抱いたりおっぱい吸わせたりして、最後は自分の隣で添い寝させた。まさか潰さないよね、、、とは思うが、怖くて2時間足らずの間も何度も目が覚めた。存分にぐずついたあとのサクは、ちんまりした体で堂々と熟睡。かわいすぎ。
朝食後、おっぱいマッサージ、退院後の生活指導、沐浴の見学、自分の診察、貧血の注射、シャワー、もちろんその間も授乳やおむつ替えなど、どこの売れっ子だ?ていう過密スケジュール(なんて書くとたいがいオーバーなようだが、これでもぐったりするくらい産後の体力気力は落ちている)。『お産のあとは怠け者でいましょうね〜』と産院の配布するしおりに書いてあるが、なかなかそうはいかないもんだ。冷めた昼ごはんを食べていると、もう少しで個室が空くので荷物をまとめるよう言われ、三日間とはいえ、それなりに生活感をかもしだしている大部屋のコンパートメント内を整理。
午後3時、個室に移動し解放感、脱力感。まさにお互い様なのだけれど、大部屋で我が子がギャン泣きすれば特に夜中はどきどきするし(同じ産婦とはいえ、お産が一日違うだけでも体調はかなり違ったりするから)、よその子が泣くのももちろん不快に思ったりはしなくても、ナーバスになっている心身では眠りから覚めたりしてしまう。そして一日中、仕切のカーテンを閉めっぱなしで狭くて暑苦しい。対する個室は、静かで広くて冷蔵庫もトイレもシャワーブースも専用の世界。ここに至るまで長い道のりだった、、、、と、大袈裟でなく万感に似た思いを抱く。
4時すぎ、午後半休をとって朔太朗の出生届を済ませた夫があらわれる。妊娠出産について、少なくとも体が負う負担は男女で天地ほど違うわけで、もちろん男性が悪いわけではないが、恨み言のひとつも言いたくなるような、なんだか理不尽な思いもする。でもやっぱり、夫の顔を見るのが何よりの安心だし、子を抱く夫、私の調子を気にかける夫の姿に感動するくらいのうれしさを感じる。
6時半、夫の同期T君、続いて7時半には私の友人なおちゃんが見舞いに来てくれる。言わないはずはないんだが、「かわいい」と言われればうれしいし、友達の顔を見ると外界とのつながりを思い出せる。仕事帰りにわざわざ、しかもお祝いまでいただき、二人ともありがとう。
ぐずぐずのサクちんに付き合いながら、今夜も更けていく。

  • 7月9日(金)サク生後4日め

『モケモケくん』と呼んでいる。お腹がすいて口を開けたり閉じたりする様子をあらわしている。モケモケしてみせても放っておかれると、顔をくしゃくしゃにして泣き出す。徐々に顔が真っ赤になり、さかんに頭を動かし(首もすわらない子がこんなに動くもんだとは知らんかった)、抱き上げられればそれが誰かなどおかまいなしに右に左にのけぞって吸い口を探す。おっぱいを差し出すとすごい勢いでむしゃぶりつき、顎を動かす。軽く10分以上は飲み続けることができる。
こんなサクなのに、とある時間、授乳前後の体重を量って調べると母乳は18ccしか飲めていない。飲めていないというより、まだ出てないんだろう。うちの産院は母乳が出るまでは無理せず混合で、という方針なので、飢えていることはないだろうが、そんなちょぴっとのために、そりゃもう懸命におっぱいを吸い続けるサク、、、いじらしいもんがある。
沐浴実習。意外にも、湯の中では暴れず、私の手にすべてを委ねてほやーっとしている。上げてバスタオルで拭いていると我に返ったように泣き出した。先天性代謝異常の検査では両のかかとから血を採られ、どの赤ちゃんもそうだろうがギャン泣きしたらしい。しばらくそのままで放置されていたようで、部屋に戻ってきたときには、泣き疲れてふてくされたような表情。それから3時間以上も、こてりんと寝続けて母をさみしがらせた。
5時には父、6時過ぎには夫、6時半過ぎには夫の両親、8時には姉と、家族がかわるがわるやってきてサクを抱っこ。
みんなが帰ったあと授乳していると、当直の看護師さんが夜の巡回にきて、
「明日で退院ですね。エミさん、大好きでした。こういう言い方は失礼かもしれないけど、かわいいし、礼儀正しいし、、、。明日から寂しくなります。」
などと言ってくれて、彼女が部屋を出ていった瞬間、涙が噴き出す。こちらこそ、看護師さん助産師さん全員にどんなに感謝しているか言いきれない。もちろんそれが彼女たちのメシの種なんだけど、ほんわかした人、さばけた人、お母さん系と、いろいろタイプは違ってもみなさん一様に親切で、真心が感じられ、しかも有能なのだった。応対も”顔に貼りついた笑顔”て感じとは対極で、とても自然。お給料のための義務感ではできないレベルだ。きっとみなさん、自分の仕事、この産院に対して誇りをもっているのだと思う。
腕の中のサクを見つめて、「ここでのこと、忘れないでいようね。」と話かける。サク、ぶりぶりっと一人前のウンチ音で応える。あとで冷静になってから思ったのだが、退院前夜の巡回でああやって入院生活を総括し励ますのも、マニュアルといったら悪いかもしれないが、恒例なんだな多分。あまりにも自然におっしゃるもんだから、全力で真正面から受け止めてしまった。なんという優秀な人たちなんだ、と、ほとほと感心。
そういえばこの部屋にはテレビがついているので、朝『ゲゲゲの女房』だけ見た。中4日あけての視聴。ああ、ここまでこれた、という安堵感と、今日を限りに物語から去る南明奈の好演技に涙。しげる(向井理)への恋心を秘めながら、妻であるふみえ(松下奈緒)の前で「先生の漫画が好き。先生の漫画にかける情熱が好き。・・・先生のご家族が好き。」と、それも心からの真実である言葉を、かみしめるようにそっと伝える、はるこさん(アッキーナ)だった。