マタニティ・ブルーの世界へようこそ

出産後およそ30時間の7月6日、朝5時。産院ではお産当夜、軽い睡眠導入剤を服用させるのでそれまではぐっすりだったのが、一度目覚めると眠れなくなってしまった。
体があちこち痛い気がして、まだ気楽に寝返りを打てない。身じろぎできないベッドの中で思い浮かんだのは、夫のこと。
昨日、分娩後につないだ彼の手の、あたたかく馴染んだ感触。
これまでずっと二人きりで向き合う生活を送ってきたけど、里帰りが終わって家に帰ると、子供を中心に考えるように変わってしまっているだろう私に、夫は味気ない思いをしないかな、とか。(まぁこれまでも、世話をされてたのは夫というよりむしろ私だったが、、、)
いま新生児室で眠っているだろう子供のことをいとしく思うのとはまったく別次元で、「本当にもう戻れないんだ、私たちのひとつの時代は終わってしまったんだ」という思いにかられた。
気づいたらやけに涙が出て止まらないじゃないですか。
泣きながら夫にメールを打つ。
彼が起きて落ち着くる時間を待って送信したり、(これが二人目の出産後なら、こうやって恋しく思うのは夫でなく上の子のことなんだろうな)とか考えるくらいの余裕があったのはまだ救いだった。
まいったな、早くもマタニティーブルーってやつですか、、、という自覚はいちお持ちながらトイレに行き、帰りに新生児室の前で立ち止まる。前日、前々日と出産ラッシュだったので満員状態だったが、不思議なもんで、昨日はおむつすら替えていない我が子なのに、ひとめで「こいつだ」とわかる。起きている。泣きはせず、できるかぎり手足をもぞもぞ動かしてて視界を広げながら、この新しい世界をきょろきょろ見回しているように見える。
じっと見てると、詰め所から出てきた看護師さんが「抱っこしますか?」と言ってくれた。
そう、抱っこ・・・! 昨日の私は著しい体力の低下により、子を抱くことも許されなかったのだ! 試しの授乳も横になっての添い乳だった。
抱くと、息子はほかほかしてて、見た目よりずっしりした感触があった。「10分ほど廻ってきますので」と去っていかれるのが心細かったが、泣かないサク。ふたりきりで話す10分間。
部屋に戻ると夫から返信が。
『おはよ。ゆうべは缶ビール3本飲んで10時半には寝た。まぁ生活は変わるやろうが、また新しいスタイルを探しながらやっていこう。じゃあ行ってきます』
簡潔で飾り気なく、でも思いやりがあり、気負わない前向きな感じ。いかにも夫らしかった。
生活や環境が変わっても人はそう簡単には変わらないんだよな、と思いながら、朝食後、穏やかな二度寝の世界にもぐりこんだ。