『わが家の歴史』フジテレビ開局50周年特別企画

三谷さん好きとしては逃すわけにはいきません。見たよー全編、8時間半。

想像してたのとはけっこう違った。んー、なんというか、笑いにしろ、泣かせにしろ、もっと濃度が高いのかと思っていた。見てから、「ほぼ日」での糸井重里との対談を読むと、三谷さんは「トゥーマッチじゃない」、糸井さんは「平熱」と表現していた。まさに。

ひとつには、3夜連続、8時間半という長さのためにそうしたんだと思う。特定の場面であまりに感情を揺さぶられすぎると、また、興味を引きすぎると、それが解決されたとき、「おなかいっぱい」になって、力が抜けてしまう。見ている側はその段階で気持ちに区切りがついて、ドラマから「いち抜けた」になっちゃう可能性がけっこうある。でも、三谷さんは(もちろんフジテレビは)そうしたくなかった。3日間、すべての場面を見て欲しかった。だから、どこかに焦点をあてすぎるのではなく、一見、淡々と描いた。昭和の有名人もぱらぱらと全編にわたって出てくる。うん、まんまと見ちゃいました。

それと、これも「ほぼ日」の対談でちらっと言われてるけど、「古き良き時代」というわかりやすいフォーーマットにあてはめて描きたくなかったんだと思う。だから、見るのは、意外にラクではなかった。「王様のレストラン」や「マジックアワー」なんかに比べても、ずいぶんファンタジー色をおさえた、現実的な作品だったと思う。

なんたって、主人公の柴咲コウは二号さんなのだ。けしてPTAに褒められた立ち位置ではない。でもそれが昭和。正妻の天海祐希は三谷さんの愛情を感じるすごくいい女なんだけど、夫が病に倒れたあとは、あくまで「正妻」として振舞うあたりも昭和。ほかにも、シベリアからの帰還兵である玉山鉄二の、自我のさだまらない人生や、家柄の違いゆえに両親に結婚を許されない松本潤長澤まさみ。その後、紆余曲折の末に結ばれるも、その過程で水商売やストリッパーという「底辺」を経験した長澤まさみが翳りのない幸せを甘受できずに出て行って、結局最後まで戻ってこないところ。愛すべき人間ではあるけれども仕事もろくにできない父、西田敏行・・・。

重ーいタッチではなく、そこはそれ、8時間見させるためにさらっと描かれているとはいっても、なかなか閉塞的でもあり、これを見てて「昭和(20〜30年代)っていいな、この時代に生まれたかったな」というふうには、ちっとも思えなかった。わが家=八女家の歴史よりもつるちゃん=大泉の歴史のほうが面白かった、というネット上の感想も、そういうところからきてると思う。

実際にその時代を生きた人たちはどんなふうに見たのかな。ネットで感想書いたりしない世代だからわかんないけど、ポジティブなとこもネガティブなとこも含めて、なつかしかったんじゃないかな。けっこう、見られてるとは思うんだよね。3夜とも、視聴率20%前後いってたから。まあ、その結果をもってみても、このドラマは「成功」だったんじゃないかなーと思います。さらっとした手触りのわりには、三谷さんのかなりの労作じゃないかという気がするので、高視聴率は私もうれしいです。

さて、キャスティングですが、例によって、きっと三谷さんもかかわってるよね。特に八女家とその周囲の主要人物は。西田敏行が自由すぎた〜。天海祐希もまったくいい女。大泉はほんとおいしかった。長澤まさみ堀北真希、昭和女の似合いっぷりがすごい。あ、玉山鉄二の演技が良くて驚いた。日本アカデミー賞の最優秀助演男優賞に(映画『ハゲタカ』の役で)ノミネートされてたとき苦笑してしまったんだけど、見てもないのにごめんよ、と思った。役者さんも昔のままではない。

昭和の有名人たちでは、やっぱり誰をおいてもウエンツ瑛士美輪明宏でしょう! ウエンツ、やるな、ほんと。藤原竜也手塚治虫もさすがだった。