『非道、行ずべからず』 松井今朝子

非道、行ずべからず (集英社文庫)

非道、行ずべからず (集英社文庫)

『家、家にあらず』(ごろね読書の記録 - moonshine)に続く「花伝書シリーズ」第2弾。硬いタイトルに加え、本はかなりぶ厚く、ぱらりとめくると漢字も多く、余白少なくびっしりと書きこまれているのに怯みそうになるが、読み始めるとぐいぐい引き込まれる迫力の作品なのだった。江戸の歌舞伎興行、中村座を舞台にした殺人事件。長編だから、謎解きのほうは遅々として進まないのだが、人間ドラマや芸の道のすさまじい描写でまったく飽きさせない。人間の屈折や情念を書かせると松井さんは本当にうまいんだけど、常に姿勢が正しいというか、読んでいて嫌な気分になることのまったくないのがこの人らしさだなーと思う。

2002年上半期の直木賞候補作であり、このときは受賞を逃している。でも、同じく時代小説の書き手であり、このとき受賞した乙川優三郎さんの書く小説よりも、私は松井さんの小説のほうがずっと面白いと思う。ちなみに、そののち松井さんは2007年上半期、『吉原手引草』(GW備忘録 - moonshine)で直木賞を受賞しています。これはまた見事な作品です!