『密謀(上・下)』 藤沢周平

密謀 (上巻) (新潮文庫)

密謀 (上巻) (新潮文庫)

密謀 (下) (新潮文庫 (ふ-11-13))

密謀 (下) (新潮文庫 (ふ-11-13))

2010年最初の読書。名手の文章はお正月によく似合う。この小説は、筆者の作品では珍しく歴史の表舞台が題材になっている。藤沢周平の描く戦国絵巻である。

秀吉の天下統一を目前にしたころから、関が原の勝敗が決するまでの時期のことだから、その一生を追いかけたわけではないけれども、主人公は直江兼続。というわけで、妻夫木くん、北村一輝さん、そして小栗くんの姿をイメージしながら読んだ。あの大河ドラマの中でも一、二を争うマトモな役どころだった小栗くんはともかく、残りのふたりについては良い供養をしてあげた思いになった(笑)。名人の手にかかれば、景勝−兼続主従もすがすがしく格好良く、すこぶる魅力的な人物として浮かび上がってくるのだ。

従来、多作な藤沢さんの小説の中で、代表作である『蝉しぐれ』やらに比べると劣後した評価になっているんじゃないかと思う本作だけれど、やっぱりさすが、正面から歴史を描いても面白い。武将たちの駆け引き、天下のゆくえ、勝つ者、負ける者、死にゆく者。全編を貫く緊張感といったら、とてもページをめくる手を止められない。戦国の世とはこういうものだ!と、ぬるいぬるすぎたあの大河ドラマの製作陣に言ってやりたいよ。

藤沢さん作品らしい「草の者」の登場は、物語に厚みを増すのと同時に、時に弛緩剤にもなっている。ただ、やや、とっ散らかった感もあるかも。