土曜日のできごと。

私は迷っていた(こういう、大仰な冒頭で書き始めるのは楽しい)。
いつ病院に行くか? 
今日、10月24日土曜日は4週2日めということになるはず。明らかに早すぎる。どうせ病院に行っても、(明らかに異常が見られる妊娠でなければ)特に展開がないことはわかっている。でも、今日を逃すと、平日に行くのは不可能なので来週の土曜日ということになる。うーん。来週の土曜で、5週2日め。全然、問題はなさそうだ。というか、それでもまだ早すぎるかもしれないくらいだ。

とりあえず、病院に電話をかけて聞いてみた。「陽性反応が出ているなら、いつ来てくださってもけっこうですよ」と応対してくれる優しい声に、そ、そうなんだー。と一気にほだされそう(?)になるが、「今すぐ来てください!」て言われたわけじゃないしな。あくまで私の選択にゆだねられたわけだ。ま、病院側の立場では、不安に駆られてる人間に対して「まだ絶対来ないでください! 意味ないですよ、来ても!」なんて言えないだろうしな。。。

とりあえず布団に入る。なぜか長時間熟睡ができず、土曜日だというのに朝は7時に起きてしまった。目覚めはいいのだが、やたらと眠くなる。迷っているうちに眠ってしまった。1時間ほどして目覚めると13時過ぎ。いつのまにか夫もふとんに入ってきて寝てた。がばっと起き上がって昼ごはんを食べ、着替え・化粧をする。やっぱり行こう。腹の中に何も見えなかったとしても、プロといろいろ話せば、納得したり安心したりすることもあるだろう。

家から徒歩2,3分といったところに開業医の産婦人科がある。市内でもかなり有名なクリニックなので、混み合うだろうなあとは思ったが(電話で予約診療はやってないことを確認済)、なんせやはり近いのは大いに魅力だ。昼休み明けの2時に扉を叩く。おそらく午前中に受付を済ませただろう人たちがずいぶん待っているようだった。

まあ覚悟はしていたのでのんびり待つ。待合室には「たまごクラブ」とか「初めての離乳食」みたいな本・雑誌が山のように用意されていたが、家から持参した読みかけの本『天皇と賤民〜両極のタブー〜』を読みすすめる。お母さんについてきている5〜6歳くらいの男の子が、長く退屈な待ち時間をやり過ごすためにいろんなことやってるのが相当おかしかった。最後には「おかあさ〜ん、足がかゆーい」と突如、だだをこねて嘘泣きしはじめ、まんまとお菓子をゲットすることに成功していた。

途中、いちど中に呼ばれて、ベテランらしい看護師さんに、提出した問診表を見ながらいろいろ質問された。最終月経の開始日を見て、「もう陽性、出ました? 早いですね〜。単純に計算すると、今は4週2日めです。出産予定日は、来年の7月2日になります。7月の予定日の方が見えるのは、初めてですよ」と言われる。ええ、存じてます・・・。フライングすぎてお恥ずかしい・・・。でも、看護師さん、とっても優しかった。私の住所を見て、「あらーとってもご近所さんですね。道でばったり会ってもおかしくないですね」なんてお話してくれたり。

あわせて1時間15分ほど待ったあと、いよいよ先生の診断。ん? まだ尿検査してないですけど? ほんとに陽性かどうか、検査してくれるんじゃないの?

「見てみますので、そこに寝てくださいね〜」と看護師さんに言われ、てっきり内診だろうと、あの奇妙な台を目で探していると、示されたのはふつうのベッドだった。「骨盤が見えるくらいまでお腹を出してくださいね〜」ん? 腹? 腹でいいのか? ゼリー状のものを伸ばし塗られる。おお、超音波エコーね。いきなり、それなのね。

どーせ見えるまい、、、と投げやりな気分でされるがままになっていると、機械を操る先生(70歳近いか?)、「はい、これね。この丸いの」。えーっ、4週の始めで、もう見えるんだ。しかもそんな、あたりまえのように。ちなみに、裸眼の私には、モニターが全然見えない。「ん? これは、、、ふたりかな?」は? ふたりって? ふたご? 「あ、こっちは気のせいか。ひとりだね。まず間違いなく子宮の中にいますね」と、子宮外妊娠等は否定されたもよう。

そうかー、来院前に陽性反応が出てたら、もう尿検査は省略なのか。合理的だな。と思いながら腹のゼリーを拭かれ、椅子に座る。先生、なんの説明もなく、おもむろに質問攻め。
「おつうじは毎日ありますか?」 「はい」
「朝ごはんはパン? ごはん?」 「ごはんです」
「夜ごはんは何時?」 「・・・平均して8時くらいかなあ」(かなりのバラつきを平均してみた)
「お風呂は何時?」 「・・・23時くらい?」
「寝るのは?」 「12時」(平日はね)
「起きるのは?」 「7時」(平日はね)
冷え性ですか?」 「・・・うーん・・・」
「(聞こえなかったと思われたのか)冷えるほう?」 「や、それほどでも」
って感じで、タイムショックばりにテンポ良く一問一答を迫られた。

ネットのクチコミで、「先生は厳しい」 「ものすごくズケズケ言う」 「体重管理に厳しい」 「すなわち食事管理や生活管理に厳しい」 「増えすぎると本気で起こられる」など見ていたので、きたきた、って感じ。怖い怖いと書いてる人のコメントにも、必ずといっていいほど「でも、とってもいい先生です」 「親身になってくれる」というようなフレーズが添えてあったので、ま、心強いんですがね。

先生、私の答えをカルテにメモし、さっきのモニターをプリントアウトしたものの1枚をぺたっとのりで貼り付け、もう1枚は看護師さんに「はい、これ封筒に入れてあげて」と言って手渡すと、「まだ周りには妊娠してると言わないでくださいね。はい、質問どうぞ。」と超簡潔・・・・。えーっと・・・。

渦巻く数々の不安を胸にここへ来たはずなのだが、その場になると何から聞けばいいのでしょうか。とりあえず、胎のうは見えたし、子宮外妊娠でないこともわかったし、予想以上の収穫を得たわけで・・・。

「やっぱり、このあと流れることって、あるんですよね?」
と聞くと、
「あるある〜」
と首肯された。まるで、「何わかりきったこと言い出すんだね、君ぃ」てな風情。そ、そうですよね。
「だから周りに言っちゃだめなんですよ。次は、そうね、1週間後から2週間後以内に来てください。仕事してんなら土曜日でしょ? あ、わたし、来週の土曜日はいないんだ。2週間後でいいよ」
やっぱ2週間後か・・・。遠いのう。そうよね、そんなしょっちゅう通院したって意味ないですもんね〜〜〜〜。
って感じで、帰宅。かなりオーラのある先生だった。妊婦なんて、もう何百人、何千人と診てきてんだろうな。

とりあえずできることは全部やったし、昨日から考えることもひととおり考え尽くした感があり、なんとなく気が済んだ。すんごいちっこい赤ちゃんと、いま一緒にいる。この子にしてあげられることは(禁酒・禁煙以外)今は何もない。この時期、普通に生活してても、いくら安静にしても、流産するときはするらしいし、しなければ、細胞分裂を繰り返し、毎日が倍倍ゲーム以上の勢いで大きくなってるらしい。変なの。おもしろいな。だんだん大きくなるのを体感してみたい。でももし早い段階でお別れになったら、しかるのち、しのび酒を飲もう。それ以上の不幸については、いま考え過ぎてもどうしようもない。