『中国行きのスロウ・ボート』 村上春樹

村上春樹、最初の短編集。1980年〜82年に書かれたものたちで、長編でいえば、『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』発表の前後。ちなみに私はどちらも読んでません。
想像以上にとても面白い、いずれ劣らぬ短編たちだった! 

中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)

中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)

実際に読んだのは先月のシルバーウィーク中だったのだが、今こうしてそれぞれのタイトルを挙げていくだけで、ちょっと胸がいっぱいになる。
「ちょっといい話」とか「涙が出ちゃう」といった話じゃないし、あらすじを人に話せば、「ふーん、だから何?」って言われて終わるんだろう。

でも、“読書の喜び”みたいなものが体の隅々にまでいきわたっていく、あの感覚。なんなんだろうね。なぜ読み終わったあと、「はーっ、いいもの読んだ。」と芳醇な気持ちになれるのだろう? 頭の中がぐるぐるしてくるような彼の長編の感じとはまた違って、わけがわからないなりに妙に気持ちよい読後感だった。もちろん長編も面白いんだけど(『世界の終わりと・・・』の1作しか読んでませんがね)、短編も、また違った良さがあるなーと思った。どちらにしても、春樹の小説って、まだまだ私には謎が多い。このおもしろさはなんなのか・・・。

淡々と乾ききった文章なのに、この短編集にはそのものズバリなシーンはひとつもなかったのに、エロの気配がそこここにあるのも不思議。予定調和の展開とは180度違うのが村上春樹の小説世界なので、いつどこでセックスシーンが始まってもおかしくないな、と常に頭のどこかで考えながら読んでいた・・・こんな私、異常ですか。