『ザ・マジックアワー』 ブラボー!

土曜日に地上波初放映されたのを録画し、日曜夜に鑑賞。
いやー笑った笑った。特に前半、「抱腹絶倒」って言葉がぴったり。こんなに積み重ねられると、夫婦して30代だというのに“箸が転げてもおかしい”ような状態になって、堪えきれなくなった夫が「ちょっと、これはビールでも飲みながら見ようじゃないか!」と変なテンションで提案した。

しかしさすが三谷幸喜、笑わせることだけに汲々としてるわけじゃない。前半には細やかな伏線が張り巡らされていて、それが後半になってビシビシ効いてくるのが最高に気持ちよかった。スクリーンを見ながら目を赤くする佐藤浩市にこっちも涙したり、大挙して駆けつけたベテラン映画職人たちの仕事には胸がスッとしたり。大団円にも少しも無理がなかった。

官僚たちの夏』やら『天地人』やらで、佐藤浩市や妻夫木くんに忸怩たるものを感じていたので、この映画を見ると、心底
「結局、役者を生かすも殺すも作品だ!」
と痛感もしたなあ。や、2人とも、迷作や駄作でも「役者は悪くないんだよな、役者は。ていうか、役者がかわいそうだろ!」と思わせるだけの力量はあるんだけど、この映画では本当に輝いてたもん。売れない三流俳優役の佐藤さん、中途半端な詐欺師役の妻夫木くん、それから、淋しい魔性の女を演じた深津絵里も含めて、メインの3人はこれまでにない役どころだったけど、まったく危なげなく、それどころか生き生きとしてて、スターのオーラをびんびんに出してた。

周りを固める西田敏行寺島進小日向文世綾瀬はるかといった面々が、まあ「いかにも」な役柄で新鮮味がない、という意見もあるみたいだけど、それでも、名だたる役者たちを絶妙に絡ませ、且つひとりひとりの見せ場を作れるのは、やっぱり三谷幸喜という稀代の作り手によるもの。いやあ、三谷さんの作品には、愛を感じるよ。役者ひとりひとりに対する愛、そして、映画というもの、コメディというものに対する、限りない愛と敬意を感じる。

毎日新聞に連載のエッセイ『ありふれた日々』でも、古くからの映画作品や俳優、監督などについておおいに綴っている三谷さん。彼には、自分が作りたいものというのがはっきり見えているんだろうなあ。これまで4本の映画監督作品を見ても、脚本は言うに及ばず、セット、演出、カメラワーク、エンドロールに至るまで、そのこだわりを強く感じる。古いおとぎ話のような音楽も好き。

“世相に深く切り込んだ!”とか、“社会に鋭い問題提起!”、とか、“圧倒的な芸術性・前衛性!”とか、あるいは“涙なしには見れません・・・”とか、賞をとるのって往々にしてそういう作品だけど、それだけが素晴らしい作品じゃない。三谷さんはこれからも、巧みな脚本と演出で観客を笑わせ、心あたたまるラストでじんわりさせる、決して下品じゃないユーモアあふれる映画を撮るんだろうな。それになんといっても彼が監督した映画はまだ4本目、三谷さんってまだ50歳にもなってないよね? これからまだまだ進化し円熟した作品を見せてくれるんだろうな。それはとっても幸せなことだなーと思う。