『昭和史が面白い』 半藤一利・編

昭和史が面白い (文春文庫)

昭和史が面白い (文春文庫)

上記の『昭和天皇(上・下)』と併読していった本・その1。これもまあ、何回目だっていう再読だ。
歴史的事件のみならず、戦後の赤線やストリップ、東京オリンピック紅白歌合戦、勃興した雑誌についてなど、28のテーマについて、それぞれの当事者や遺族ふたりと、編者の半藤一利が行った鼎談。

どれも平成に入ってから行われた鼎談なので、「今だから言える」という生き証人たちの戦慄の証言も数々ある。同時に、2009年現在、参加者には既に物故されている人も多く、そういう意味でもとても貴重な本だ。

昭和天皇の一生を追っていくと、2・26事件や日米開戦、「統帥権」問題、学徒出陣、終戦、東京裁判などを見過ごすわけにはいかなくて、『昭和天皇』本でそういう事件が出てくると、こちらの本で当事者(や遺族など)が、おのおのの事件についてどのような話をしているか、というのを合わせて読んだ。

最後にたった一つ、昭和天皇ご自身を挙げたトピックがある。『昭和天皇はパンダがお好き』。
25年間、昭和天皇の通訳をつとめた真崎秀樹と、宮内庁担当記者の高橋紘が鼎談の相手だ。
昭和後期の、天皇の人柄そのものについて、概ねほのぼのと語られているのだが、後半で高橋が言った言葉

私は、陛下がお亡くなりになったとき、心からお疲れさまでしたと申し上げたいような気持ちでしたね。本当に、針のむしろのようなご生涯だったと思うんです。戦争責任の問題でも、陛下ご自身は何かお気持ちを表明しようと思われても、そのときどきの政治情勢や国際環境が言わせなかったわけですから。それをジッと耐えておられたのは大変なことですよ。

これは、天皇の近くにいた人たちを代弁するような言葉ではないかと思う。
また、「解説座談会」として、刊行時に設けられた鼎談もすごく興味深い。

嵐山光三郎(作家):一番浮き彫りになっているのは昭和天皇の人物像ですね。この本全体で、いろいろなところに天皇が出てくるんですよ。とくにお人柄とか政治的な判断とか。やっぱり昭和史は天皇なんだなと、強く感じました。
半藤一利:ちょこちょこ出てくるんですよね。直接の話題としては「昭和天皇はパンダがお好き」だけなんですけど。
森まゆみ(作家):あれは楽しい話でした。パンダを見るのに手すりにしがみついてとか(笑)・・・。
(中略)この前、明治生まれの女性の方へのインタビューを本にしたんですけど、13人に伺って、皇室の話が出てこない方がいなかったんですね。皇居へ行ってごはんを食べた話とか、どこかで必ず出てくるんです。明治生まれの方というのは善かれ悪しかれ生活のなかに天皇制がインプットされているみたい。そこが戦後生まれの私たちとは全然違うなと思いました。

最初に読んだときは大学生か、卒業したばかりかで、むしろ文化的なテーマについての鼎談が面白かった・・・というか、昭和史についての知識が乏しかったので、わからないことが多かった。ほかのいろんな本などで知識を得るたびにこの本に戻ってくる。すると、「おおっ」と驚愕する。その連続です。

この本、ほんとに「買い」だった。まさか既に絶版になってたりしないだろーね。ある程度わかってから読むと、鼎談なのですごく読みやすくて、かつ生々しくて、すごい価値のある本だとわかる。文芸春秋社は、今後も折にふれ、この本をプッシュするように!