『白洲正子“ほんもの”の生活』『白洲正子自伝』

両方とも夏休みに読んだ。
NHKドラマ「白洲次郎」の第2話を見て、この夫婦に興味が湧いたのは3月のこと。この日記にも何度か書いてますね。
それから5ヶ月も経って、本屋でふと見つけたこのオールカラー本を手に取った。

白洲正子“ほんもの”の生活 (とんぼの本)

白洲正子“ほんもの”の生活 (とんぼの本)

子どもの頃からの彼女自身の写真。白洲邸「武相荘」の調度品、正子が愛した花や骨董、茶器、能舞台、着物などの美しいカラー写真たち。娘さんをはじめ、正子を身近に見てきた人たちの文章。白洲正子入門編としてはとても豪華な印象の本だ。
生涯をかけてほんものの美しさを求め続け、一流の審美眼をもつに至ったという正子の生涯。かといって私なんかにしてみたら、ここに写されたものたちを「きれいだなー」と思って凝視こそすれど、これが一流なのか二流なのかなんて判断はつかない。
ただ、これを読んで、白洲正子という人のことをさらに知りたくなった。それで、次の本を買った。
白洲正子自伝 (新潮文庫)

白洲正子自伝 (新潮文庫)

自伝だからもちろん彼女が書いたものだ。
ドラマで中谷美紀が演じる正子像にしろ、先の本でまとめられている正子の生涯にしろ、その印象は「不機嫌なお嬢様が自分の道を求めてむちゃくちゃに走り続ける」というもの。
明治の元老を両祖父にもつという大変なお嬢様なのに、子どものころから自分をもてあまして不機嫌なのだ。白洲次郎という、戦後の表舞台の黒子として大変な活躍をした人の妻であり、3人の子どもをもちながら、“内助の功”的な生き方には目もくれないのだ。有閑マダムの道楽、と総括するには、あまりにも求道的な活動家なのだ。そして、その活動をまとめた文筆が世間で認められたのは、すでに還暦近くなってからという晩成の人でもある。
なんかとにかく変わった人で、でもとにかく自分に正直でいるために、恐ろしいくらい突き進んだ人らしい。

そんな人が書いた文章が読みたくなったのだ。書画骨董について、能について、旅についてなど、彼女の書き残したものは多いけれど、それらのテーマを私が消化できる自信はまったくないので、とりあえず彼女が自身の生涯について書いたものから読もうかなと。

その文章、まあ切れ味の鋭いこと。
冒頭、祖父・樺山資紀がまだ若き日の薩摩藩士で、橋口覚之進と名乗っていたころ、寺田屋事件で彼がいかに峻烈に振舞ったか。というくだりから始まるのだが、これがもう戦慄、ガクブルもんです。一気に読者を引き込む。
当時一流の文化人たちに女だてらに弟子入りして、毎日、泣くどころか、実際に吐くまで絞られたというのは有名な話だが、それも眉唾もんじゃない書きっぷり。
自伝というくらいだから彼女の最晩年、おそらく80歳を越してから書いたものだと思うが、その年になっているからこそなのか、さっぱりとからりと、また恬淡としてはいるけれど、とにかく無駄がなく、情緒に走らず、かっこいい。
青山二郎小林秀雄との師弟関係についてなど書いたものなども、これから読んでいきたいと思う。