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輝かしい才能、神に祝福された人

音楽

宇多田ヒカルのアルバム『Heart Station』が、すんごくいい!!

HEART STATION

HEART STATION

2008年春のリリースだから、何を今更、てな話だが、つい先週、初めて聴いたんですよ。
一聴してると、何となくサラッとした手触り。
前半にはシングルとして発表された曲が固まってるせいもあるだろう。
しかし後半はなかなかドラマチックな展開。
聴き終えて、ちょっと打ちのめされた感があった。
こんなの作っちゃうんだー。すごすぎる。

重みや鋭さ、アートな感じは前面に出されてないの。前作『Ultla Blue』や、さらにその前の『Deep River』に比べると、かなり軽やかでキャッチーでポップ。
ドラマ『ラストフレンズ』の主題歌として、あの重苦しく濃厚な世界観づくりに大きな役割を果たした『プリズナー オブ ラブ』(←スペル綴るのがめんどくさくなったのでカタカナ表記)を擁していても、アルバム全体の軽やかな流れは途切れることなく、とてもスムースに進む。

その“軽さ”は決してチープでなく、上着を脱ぎ捨てたような、長い髪をバッサリ切ったような、まるで幼虫が羽化したみたいな鮮やかな印象。

歌詞カードとか見なくても耳に直接飛び込んでくる歌詞は、さみしげなもの、拭い去れない孤独感を表したものもチョイチョイある。
「悲しいことは きっと この先にもたくさんあるわ」
「憂鬱に負けそうな日もある」
「自分の美しさ まだ知らないの」
「何が欲しいかわからなくて ただ欲しがって」

でもこんな詞も散りばめられてる。
「もっと近づいて がまんしないで 少し怪我をしたって まあいいんじゃない?」
「くよくよしてちゃ 敵がよろこぶ 男も女も強くなきゃね」
「Monday to Friday 負けないで」
悲しみを大仰に歌い上げるんじゃなくて、それはあるにはあるし逃れられないけど、励ましに転じる。それもまた軽やかに、肩をポンと叩いて、「ま、がんばろうぜ、ボチボチ」て感じ。気張らんでいいけど、やらんとしょうがないけんな、みたいな。

サウンドも、相変わらず細かい光の粒子が舞い踊るような、ひだが幾重にもあるスカートみたいな繊細さにあふれてるけど、技巧とか前衛って感じはそんなになくて、あくまでキャッチー。
うん、やっぱり前作、前々作と比べて、低音の鳴りが小さくなってる気もするんよね。そういうアルバムつくりをしたんだろう。

この軽み。いろいろあるし、楽観なんてできないけど、それでいいやん。て感じの力の抜け方が、なんとも宇多田ヒカルの「今」っていうか、大人になったんだねー、ヒカルちゃん。て感じで、ほんとに胸打たれた。すんごい、しなやかさ。

優れた感受性と音楽性、そして「今」を生き続けてるリアル感にあふれてる。すばらしい才能! あと、こんだけのいい音が作れるだけの予算。いやー、予算の枠が大きいのも、彼女への絶対的な期待と信頼感あってこそだもん。彼女の音楽聴いてると、“音楽性と人間性は別もの”なんて思えない。高らかに訴えなくても、間違いなく精魂こもってると思えてしまう。デビューして10年経つのに、少しも色あせない。クオリティが下がらない。同じ時代を生きてることを幸福に思わせる希有なアーティストだ、宇多田ヒカルは。

ちなみに宇多田ヒカル自身はこのアルバムについて、「潔いアルバムになった。小気味いい感じ」と語っているそうだ。うんうん。それもすばらしい表現! 

でも、この希望を散りばめたアルバムで最後に歌われるフレーズはこうなんだよね。
「誰もいない世界へ 私を連れていって」
・・・・・。
ちょっと、ぞくっとするんだよね。深い。

いやー、こんだけの文章(スペース含めてだが3,000字近い)を携帯でしこしこ打ったのだ。
このアルバム、引いては宇多田ヒカルに対する私の感動と情熱や如何に、てなもんである。