『真田丸』 第33話 「動乱」

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やっぱり大河ドラマは歴史の素養がある人が書くに限るよなあ、と思わされる前回、今回。これだけいろんな人物が出てきていろんなこと言ったり動いたりすることに、「おおっ、そうくるか!」てのはあっても違和感がないんだよね。

加藤清正や福島正則は、豊臣ファミリーの子・虎之助であり市松であると自負しているから、北政所のところに相談に行く。そこで寧があっさり「家康につきなさい」と指示するのだが、それが淀や秀頼はまったく関係なくて「伏見で戦などあってはならないこと」と言うのがすごく新鮮で、でも納得感大きいんだよなあ。権謀術数を知らない優しいおっかさんならそう言うよね。

そして寧は、病床の秀吉を無理やり叩き起こして一筆書かせた三成の姿は見ていて、家康の姿は見ていない。三成はもともとの性格のうえ、秀吉の遺体の件で「わたしに聞こえんところでやってくれんかのう」と言われたものあり、天下の仕置きや諸大名の言動について寧にいちいち報告はしていなかっただろうが、家康は寧のところに参上した(そして自分に都合よく話をしていった)形跡がある。いろんな描写が重なって、あーこうなるわなあ、と。

徳川に襲撃情報を裏流ししちゃうのが、流れ流れて今は小早川秀秋のところにいる江雪斎っていうのもうまくてねー。家康が氏政を衷心から救おうとしたのを江雪斎はよく知ってるもんな。情けは人のためならず、だね。で、三成はというと、イラッとさせるサムシングを持ってるうえに、あれこれ苛酷な処断をしてきたという印象を持たれてるんだろうな。秀吉が命を発して三成が実行してきたことが多いから。

そんな、秀吉が遺した負の遺産や、三成の人となりもだいたいわかったうえで「君側の奸」とまでぶちあげちゃうのが徳川のおそろしさなんだけど、自分の仕える主の器や能力に心酔していて天下をとるべきだと思い込んでいるのは本多正信も三成も同じ。正信のように「暗躍が好きで好きでしょうがない」みたいな人物が出て来ると大河は盛り上がります。好々爺然として冷酷。近藤正臣、「あさが来た」のお舅さんより全然似合ってると思いますよ。

今回、もうひとりの「主に仕える者」が直江兼続であり、彼はこれまでどちらかというと「お屋形さまの限界を正しく知る者」として描かれてきた。信繁のことも決して憎からず思っている直江の「これ以上は時の無駄である」よかったなあ。そこからの、景勝に奏上する三成評「義のために死ねる男です」。これもさ、三成と直江の仲をドラマ外での関係をほの想像させて、いいセリフじゃないですか。まぁドラマだけ見てたら「? あんたがなんでそんなこと知ってんの?」思う人もいるだろうけども。それを受けての「では、わしはどんな男だ」 これよ、これ。



「義のために死す」は景勝のフックになったのよね。しかも、ほかならぬ直江が言ったから、「元祖・義の漢(おとこ)謙信公の跡を継いでるのは俺だ!」って気持ちになったんだろうなー、と。そしてそして、三成を止めた景勝に驚く(露骨に驚いてたw)信繁に向かって直江が言う「お屋形は本気になられた」。それが直江の新たな苦渋の始まりでもあるのだけど、喜びでもあるのだろうなあと思わされたのでした。今回の上杉の場面、いくつもの短いセリフがいちいちかっこよくて痺れたよ!! こうなってくると、直江状が楽しみでたまらんですな!!


きりの「石田様しまったと思ってますよ」といい、清正の「ふりあげた拳をどうしていいかわかんないんだろ」といい、ものすごく頭のいい三成に見えていない部分をこの2人が正しく理解しているのもツボだよね。ここへきて、「やっぱり、きり=霧隠才蔵なのでは」説をツイッターで見かけた。信繁がきりの意見を求めたのも地味に感動。そうなるとスタスタ歩いて行っちゃうきりちゃんがまたきりちゃん。

清正の「腕相撲やろうぜ!」を心底苦々しい顔で見下ろす三成が最高。清正だったら腕相撲で絶対スッキリできるし三成だったら絶対スッキリできない、ってのがよくわかるんだよね。「こういうのおまえらしくない」ってなんだかんだ三成のことが嫌いだけど大好きなのに、清正には清正のやり方しか提示できなくて、三成はやっぱりそれに乗れない。なまじ単純に反りが合わないってだけじゃない関係が、くーってくる。願わくば前回三成が言った清正の「おまえは案外、城作りもうまいし領内の仕置きも確か」な部分ももうちょっと見たかったんだけど、三成をこうしてちゃんと理解していること自体、清正がただの脳筋じゃないことを示してるんだろうね。

今回、寧に「この子には難しいことはわからない」と言われた金吾中納言にもちょっと驚く一面があったりするのかなーと楽しみにもなる。

このドラマで初めて片岡愛之助をすごくいいなと思ってる。今日の三成とのやりとりも家康とのやりとりもすごくよかった。後者の口舌はまったくの歌舞伎調だったけど私にはそれがツボでしたね。刑部の妙な率直さが、彼が元気なころはどうにも危ういなと感じてたんだけど、いま秀吉の遺言を死にゆく老人の世迷い言と断じ、家康に向かって自分は秀頼公の忠実な家臣と言い放つ彼に「こういうことだったのかー!」と思う。

先週、さんざん人望の無さを描かれた三成が、清正やら刑部やらに熱い友情を示され、とどめに景勝にハグされるのがねー。ううっ。ただ、景勝の本気がいつまで続くのかはちょっと疑問ではあるw 直江さんは念には念を入れた直江状を書きまくるのが想像できるんだけども。

で、最後に現れてすぐさま図面を出し(何で持ってるんだよw)軍議を仕切り始める昌幸なw 「発言する者は名乗れ」の一言でこの軍議に妙なおかしみを与えるところ三谷さんすごい。そこで政宗と忠興が律儀に名乗り続けるのが何か「そうそうこいつらこういう奴!」て思わせるんだよね。三成のための仕事でもあるんだけど自らが放った刺客はちゃっかり三成のせいにしてるあたりマジ昌幸さんw 昌幸が徳川屋敷でこんなふうに振る舞う場面があると、関が原がまたいやがおうにも盛り上がりますよなー。